Sunday 27 January 2013

東京エクスタシー




さっきまでポカポカだった陽だまりが、いつの間にか右に移動している。少したつと、さらに右に動いてゆく。と、思ったら、魔法のように見え隠れする。ああ、今度はいつ現れることやら。気まぐれなお日様のお陰で、ボクの昼寝場所も、けっこう目まぐるしく移動させられるのだ。

マミーが zoom groom(ブラシ)のブルーをちらつかせて、合図している。ボクのエクスタシーの時間だぞ。ニャーン ニャーン…
ブラッシングは背中、お腹、頭、首筋、脚へと…、最初は優しく、そしてゴリゴリ。たぶん愛を込めてだと思うのだけれど、なぜにボクがそんなに憎いのか、と切ないほどにゴシゴシと力が増す。けれども、ゴロゴログルグル、喉が奏でる喜びの共鳴音が止まらない。

陽だまりのぬくもりをひとりじめにして、上下左右に身体がうねる。
ククッ、くすぐったいよ。東京は今日も快晴。ああ、快感!

Monday 21 January 2013

あじの干物



ただいま〜!
マミーが旅行から帰って来た。ボクはダディのダウンジャケットにくるまったまま、おっくうだったので顔を出さなかった。いつものお友達三人とマミーは伊東温泉に行ってきたのだ。ダディとボクは留守番だった。でも全く問題なかったね。

夕暮れは、やさしく燃える薪ストーブの前で、ダディに寄り添い身も心も温まり、夜はダディのベッドに潜り込み、ボクたちはますます親交を深めたのだ。ますますお父さんっ子になっていく気がする。

おっと危ない!
ちらかった部屋を片付けようと、マミーが不注意にダウンジャケットを取ろうとした。
「あらっ、ピノ、ここにいたの!?」
「めっちゃ乱暴だなあ…。お帰りなさい。ニャン」

あっ、お土産が置いてある。これが伊豆名物『あじの干物』だな。
「みかん狩りしてきたのよ。これはスウィートスプリングという新しい品種。普通のみかんは全然なかったけれど、楽しかったわ」
と、その干物の横に置いた。今年はみかんは鳥にやられてしまい、どこのみかん園も全滅らしい。ウチの柿を食べに来る憎き鳥たちの仲間は静岡でも悪さをしているようだ。

でも、ボクはみかんもスウィートなんとかも、どうでも良い。ダディの大好物の伊豆のあじの干物は絶品らしい。絶対にボクにもおすそわけをしてくれると確信している。だって、ずっとダディにつきあってあげたのだから。ワハハハハ!

あじの干物を買って来て、とマミーに頼んでいたのをボクは決して聞き逃しはしなかったのだ。

Monday 14 January 2013

日本の初雪に思う – わが石庭にて




日本の初雪だ。イギリスの雪はクリスマスのイメージがあるが、日本の雪景色はなかなか風情がある。雪化粧した石庭、今日は格別美しい。しかし、だいぶ積もってきたなあ。このまま降り続くのだろうか。

あれっ、またインフレイタブルのブチだ。雪の石庭鑑賞の邪魔をしないでほしい。おまえさんとにらめっこをしている俗な時間はないのだ。と、思ったのも束の間、腰を落とし、真っ赤な顔をしてフンバリ始めた。
「おいおい、そんなスタイルをして、何をする気だ。ここはボクの神聖なる石庭だゾ。アー、とめろ、出すな! やめてくれ、やめて…」
  
明日の朝、ダディは、さぞかし嫌な気分で雪の中にプーを発見することだろう。それまで黙っておこうと、日本の初雪に思う。

Saturday 12 January 2013

夜のパトロール



近頃夜更けに、まるまる太ったブチが庭にやって来る。つかつかと奥まで入ってきては、ボクと窓硝子越しににらめっことなる。すかさずボクは廊下を右に左に行ったり来たり,シッポを膨らませてうなり続けるが、インフレイタブル(空気を入れて膨らませた)のような肥満体はじっと肝っ玉を据えている。一度針か何ぞでプツっと穴を開けて、空気を抜いてみたくなる。しぼんでゆく姿が目に浮かぶぞ。


「またなの!?」と、マミーが廊下の電気をつけた。

この辺りでは、エサだけ与えられて、家の中には入れてもらえぬ飼い猫がけっこういるらしい。厳冬の夜には、人情希薄になった下町界隈とお見受けするが…、だからといって、ボクの私有地に侵入を許可するわけにはいかないのだ。しかし、一体何を食べたらあんなに太るのか、案外何もストレスがないのかなあ、それにしても、猫だって肥満はよくないだろう、と細身のボクは思案に暮れる。

ああ、今夜もまたアイツが来る時間だ。そろそろ夜のパトロールを始めるとするかあ…。

Sunday 6 January 2013

お兄ちゃんの伝書鳩




今日はマミーのお兄さん、ボクにとっては伯父さんにあたる人が来る予定だったのだけれど、仕事で来られなくなってしまった。残念だ。
「ロンドンの空の下で」(エッセイ集)の中のエピソード、「お兄ちゃんの青い水筒」の、あのお兄ちゃんだ。


マミーが写真を見せてくれた。マミーによく似ている。そっくりだと思った。似てないところといえば、オジさんは「ハゲだ!」というところぐらいだろうか。もうひとつ、違うところがある。それは、子供の頃から、小鳥、ひよこ、ハムスター,鳩などを飼って育てていたそうで、大の動物好きなのである。

マミーからとてもいい話を聞いた。それは、

「私達がまだ子供だった頃,1964年の東京オリンピックのときにね、開会式で競技場から、たくさんの真っ白な伝書鳩たちが一斉に大空に飛び立ったのよ。本当にきれい! お兄ちゃんの伝書鳩もその中にいたの。ここは下町だから、とっても遠いでしょう。でも、お兄ちゃんの鳩は自分の家までちゃんと帰って来たの。お利口でしょう!? そのご褒美に日本伝書鳩協会から放鳩記念メダルをいただいたのよ」

その記念メダルをマミーは今もちゃんと「お兄ちゃん」のために、大切にとってあるという。オジさんはきっと知らないのだろうなあ。
ボクなんかちょっとその辺りに出ただけでも、家まで帰って来られるかどうか自信喪失で、情けないネコなのに、オジさんの伝書鳩は本当にスゴイなあ、と思った。

「でもその後、悲劇が起きたの」とマミーの話は続いた。それは…


「ある日、お兄ちゃんがいつも通り、学校から帰ってきて、梯子のかかった鳩小屋を見上げると、様子が変だったのね。急いで、その梯子を上ったのだけれど、鳩たちは…、みーんな殺されて、食べられて…。当時は宗教入会を勧誘する人がたびたび来てね。その日は犬を連れて来て、庭にその犬を置いたまま長居していたものだから、皆殺し…」

ボクは鳩も小鳥も決して殺さない、と心に誓った。

Tuesday 1 January 2013

日本のお正月




あけましておめでとうございます。
ボクにとって、初めての日本のお正月です。


昨晩はダディとマミーは年越しそばを食べ、それから家のすぐ裏手にある「白髭神社」から、年明けの太鼓の音が聞こえてくると、ふたりは足早に玄関を出て行った。この神社は近年はたいまつを焚き、甘酒を振舞っているので、初詣の参拝客の長い列ができるそうだ。

ボクはたいまつの火は見られなかったけれど、マミーが「ピノ、ボナネ、ボナネ、明けましておめでとう!」と言いながら、持ち帰って来た紙コップをボクの鼻っ先に。ハハー、甘酒のコップらしい。中は空だったが、ペロリ、ペロリ、ひとなめ、ふたなめ、「ああ、甘くておいしい!」。喉までは達しなかったが、初ものを味わい、2013年のすばらしいスタートをきった。

甘酒で熟睡し、眩しい太陽の光で新年の朝を迎えた。
ボクはお雑煮には全く関心がないのだが、「おせち」とやらは、いろいろなものが詰まっていて、ちょっと興味がわく。あれっ、ボクの大大大好物のエビを発見!ご相伴にあずかれるのなら、毎日お正月であってほしいものだ。それにしてもお正月のエビは特大だなあ。

「イギリスでは一日だけだけれど、日本では三日間お正月なのよ」
と、マミーからの新情報。
ええっ、じゃ、今日も明日も明後日も、エビが食べられるということなの!? エへへへへ…