Thursday 28 February 2013

ボクのドアにビーズ飾りがついた日



入口の所にピノドアと呼ばれる扉がある。どうしてボクのドアかというと、ボクが外にすぐにエスケープできないようにと、ボクを阻止するために作られたドアだから。このドアの向こうに玄関ドアがあり、二重扉になっているのだ。それに、窓からも、やすやすとは出られないように、アイディアを駆使したピノ窓もある。全く手強い相手に取り囲まれているボクである。


完全内猫にされてしまう恐れを感じつつも、いつの日か庭が完成したら、せめて昔のようにウチの庭にだけでも出してもらえるように、ダディに甘えてみようと、企んでいるボクなのだ。エへへ…

前置きはこれくらいにして…、半透明のこの脱出防止扉に、今日ビーズ飾りがついたのだ。マミーがビーズ細工を施し、さり気なくおしゃれな扉になった。ビーズの小粒の露が可憐に彩る昼下がり、優しい光の中で目を閉じていたら、万華鏡の中で自分が舞っているステキな夢を見た。

これで、春のうたた寝の楽しみが倍増したかに思えたのだが…、どうもここでは思う存分居眠りはできなさそうだ。なぜかって? ここは出入口だったのです。

Saturday 23 February 2013

薪ストーブに魅せられて




我が家に、「家を建てるなら、絶対に薪ストーブをつける!」と、わがままを通し抜いたダディの自慢の薪ストーブがある。

高価だし、東京はさほど寒くはないし、それに火を焚くのは面倒だから、というマミーの反論を完全に退けた、ダディの勝利だ。

ボクは決して口を挟まなかった。なぜなら、薪ストーブも東京の寒さもボクには全く身に覚えのないことだから。

こうして、パチパチと燃えはじく薪、メラメラと揺れる炎を眺めながら、うつらうつらしてゆくのは、世のご主人方と猫にとって肉体的且つ心理的に許された、究極の怠慢だな、と、ダディとその友人たちの赤ら顔をぼんやりと上目づかいに見ながら、ボクはそう思った。しだいに我らは思考力を失い、寝入ってしまうのだろう、残り火がくすぶるころには。

「ピピ! またそんなに近づいて、危ないでしょう! 体がこんなに熱いじゃないの、感じないの!? 焦げネコになったらどうするの!?」
と、マミーに唐突に起こされ、むりやり横に追いやられた。

ああ、ちっとアツかったかな。
焦げネコのタンゴ、タンゴ、タンゴ♪
もうすぐは〜るですねえ、ニャン♪

Saturday 16 February 2013

The Queen and I



昨晩泊まったお客さんのために、今日は取って置きの最高級のマーマレードが朝の食卓に上るというのだが…。

マーマレードに最高級なんてあるものか! オレンジはオレンジだろう。マスクメロンで作ったメロンジャムでもあるまいに。それとも、今年のお正月に初めて見た金箔入り大吟醸のように、マーマレードに金箔が入っているとでもいうのか。

「これは、昨年のエリザベス女王在位60周年記念祭のときに、皇室御用達のフォートナム&メイソンで特別に販売された、純金箔入りのマーマレードなの。華やかできれいでしょう」
と、マミーが誇らしげにお客さんに見せている。

ええっ、女王陛下の金箔入りマーマレードなの!? わあ、キラキラ舞っているよ。

「ピノにも、ちょっとだけ、舐めさせてあげようかな。もう毛も抜かなくなったことだしねえ…」
と、ありがたき呟き。クィーンにご挨拶しないとね。

“Good morning Her Majesty 女王陛下さま!
それから…
「手前、生まれはケンブリッジ、育ちはロンドン。ワケあって、東京の下町は葛飾に引っ越してまいりました。姓はないが、名はピノ。チビのため、人呼んで Le Petit Pinot と申します。以後お見知りおきのほど宜しくお願い申し上げます」

「どこかで聞いたような台詞ね。ちょっと古いんじゃないの、ピノ!

Saturday 9 February 2013

抜く? 抜かない?



抜く? 何を抜くのかというと、自分の毛。誰が抜くのかというと、言わずと知れたこのボク。こんな広い家で走りたいだけ走れて、大好きな階段もあって高い所にも行けて、家中ポカポカでこたつ(日本の猫の冬の必需品)なんて要らない。幸せ度はかなり高いはず。だのに、また抜いてしまった。毛繕いをしていると見せかけて、時にはボールで遊んでいる振りをして、毛抜きに入るのだから、ボクはなかなかの策略家である。


ロンドンで過ごした子猫のころは、四六時中抜いていた。でも確実に理由ありき反抗だった。思い通りにならないと当てつけ抜き、おんもへ出られないとわがまま抜き、独りぼっちで寂しいといじけ抜き。まあ、自分勝手な子だったわけだ。クリニックでストレスと診断された。

その治療法:1. 癒しの匂いボトルを居間のコンセントに差し込む
      2. 一日二回、ハーブレメディー液を飲む

にがいのにがくないのって、ゲーがでそうで、マミーがボトルを持った瞬間に逃げ出した。壁際に置かれたベッドに強引に押さえ込まれ、開閉口をめぐる壮絶な戦いだった。約二年間、まあマミーもよく頑張ったものだ。

考えてみると、一部分抜いてもまだまだ他の部分に毛がある故、また抜きたくなる。抜いても、数週間たつとまた生えてくる故、また抜くことができる。と、論理ともつかぬ理屈をこねてもみる。

「ピノ! 何回言ったら分かるの!? またこんなに抜いて。もうボーイじゃないのよ。あと3〜4年したらシニアになるんだからね。シニアになったら、もう毛が生えてこないのよ!」
と、信憑性の高い、怒りとも言えそうな助言にこの大きな耳がピクピクと反応する。

ボクがブサネコになってしまったら? 絶対に奴らにバカにされる。そして、同類になったら? 迫りよるブサにゃん子たちの桃色吐息が… ギャー  助けて! 逃げろ〜 もう抜かない、抜かない、ニャンニャン…。


Saturday 2 February 2013

下町小町




ロンドンから東京の下町に引っ越してきて、かれこれ2〜3ヶ月になるだろうか。早いものだ。

今までにウチの庭をうろついている奴は…デカ、ノラ、ブチ、そして、シッポをつめたのか知らん、シッポがまあるいテールランプ。女の子たちは、というと…、皆そこそこ健康そうではあるが、顔がすこぶるまずい。無茶苦茶不器量で、長生きしそうだ。まず、いくら猫でもペチャ鼻のハナ子、ミミズのように細目のミミズちゃん、カボチャ顔のかぼちゃん、それに、クシャミ顔のシャーミン。名前がないのは気の毒だから、みんなボクが勝手につけてやった。美しい、可愛い、などのポジティヴイメージの形容詞とは、いささかも縁のない、できるだけ交際したくないブサにゃん子たちだ。

ボクは文字はちょっと見ただけで、すぐに眠くなってしまうので、小説なんぞは読んだことがないのだが、マミーがこんなことを言っていた。
「『我が輩は猫である』に出てくる、御師匠さんのとこの三毛子のような、鈴をちゃらんちゃらんと上品に鳴らして歩く、美しい猫はいないのかしら。このあたりの下町じゃ、小町娘は見かけないわねえ」

下町といってもいささか広い。他の町には、3丁目には、下町小町がいるのだろうか? 本のタイトルだけは聞いたことがあるが、名前から察しても美しい三毛子さんは、どこらへんに住んでいたのだろう。山の手かもしれないなあ。美人薄命、きっと早死にしたのだろう。
「あれは、どのへんだったかしら、忘れたわ」
と、無闇な呟き。

ボクは今日も窓辺で、下町小町が通りがかりはしないだろうか、鈴の音が聞こえてきはしないだろうかと…。想いは夢の中に… ちゃらん、ちゃらん ……。