Friday 8 March 2013

カンカン踏み切りとスカイツリーとボク




春が来た。春が来た。さあ、出かけよう!
二度目の、いや正確にいうと三度目の外出だ。二度目は、また病院だった。あれは…あの姪っ子と母親が来たときに、ボクの両足裏の一部分が脱毛していることに気づき、大騒動となったのだ。階段や床を駆け回るので、すれてしまっただけなのに。この親子ときたら、猫のこととなったら、風が吹いたにも、くしゃみをしたにも、大騒ぎするのだから、たまったものじゃない。

今日は正真正銘の散歩だ。とはいっても、ショルダーバッグ入りだが。実は楽しみにしていたスカイツリーが家からは見えないので、少し見晴らしのいい所まで連れて行ってくれる、とマミーが提案した。何か魂胆めいてはいるけれど。

三人で線路沿いの散歩道をゆく。初めて聞く踏切のカンカン音が新鮮に響く。「右手前方に見えますのはカンカン踏み切りでございます」と、ガイドの大声と共に電車が通過した。ああ、シネマの世界だ。いや、ボクは確かに下町にいる。これは現実なのだ。

マミーが話し始めた。
「昔ね、私が小さかった頃、何度か飛び込み自殺があったのよ、あの踏切で…」
ボクはフッと想像の世界に…
カンカン鳴り始めたが、右を見ても左を見ても電車はまだ見えない。よし行ってしまえ、と線路を跨いだつもりだったが、昔は下駄というものを履いていて、迂闊にもその下駄が線路に挟まってしまった。さっさと脱いで逃げればいいのだけれど、あいにくワンペアしか持っていないものだから、地道に抜こうとしているうちに…あっ電車だ!
「…昔はみんな貧しくて、大方は生活を苦にしてね。今では踏切の遮断機が改良されたけれどねえ」と、マミーは話し終えた。
どうやらやはり下駄の所為ではないらしい。カンカン…また電車が来るようだ。何となくエレジーだなあ、…カンカンカンカン……。

「ニャン、ニャン、ダディ! スカイツリーが見えたよ。Wow! 本物だ

「もっとよく見えるところにご案内しま〜す」
と、見慣れた年増ガイドが率先する。

あれっ、スカイツリーに何かが!? 巨大蜘蛛か、それともスパイダーマンが窓ふきでもしているのかな? このまえテレビニュースで見た、アメリカの高層ビルのように。頼んでもいないのに、ガイドさんは「スカイツリーとボク」のスナップショット熱中モードに入っている。けれど、ここからではスパイダーは人間には見えないのかもしれないなあ。

そろそろダディがボクを重荷に感じてきているようだ。踏切は避けて、帰りは違う道を通りたいなあ。
「そろそろ戻ろうか。帰りは他の道を通ろう」
と、ダディの思慮分別のある呟きに、ボクはニタッと笑って答えた。ニャン!


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